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隠し場所

ピンポーン・・・

うわあ、内臓が口から飛び出そうだ。
緊張と興奮にさいなまれながら、俺は彼女を迎い出るため扉を開けた。

「お、おはよ!」

心なしか彼女のほうも緊張しているようである。
当たり前か。
今日、俺は初めて彼女、第三人称としての彼女ではなく、恋人としての彼女を部屋に呼んだ。
・・・いや、とはいってもバカな下心があるわけじゃないぞ?
・・・・・・・・・・・・まあゼロといったら嘘になるが少なくとも今日は・・・。
いやいやそんな話をしている場合ではない。

・・・・・・ん?
俺は彼女のいつもと違って多い荷物に気が付いた。
彼女はいつも荷物は最小限に、を心がける人物である。
俺は平静を装って尋ねた。

「今日は荷物多いな」
「・・・お、お弁当・・・・・・、つくってきちゃった・・・」

なんで。

ついそんな言葉が咽から出そうになった。
今日は出かける予定はないのだが。

「い、いやあのさ、何か手土産あった方がいいかな、とか思ってさ、でお菓子つくろうと思ったんだけど、直前でアンタがお菓子大して好きじゃないの思い出してね、で・・・・・・・・」

で、弁当をつくったというわけか。
彼女の声がどんどん尻すぼみになっていく。

「・・・・・・家に遊びに来てお弁当って・・・、ヘン、だよね・・・・・・」
「い、いや。俺のこと考えてメニュー変更してくれたわけだろ、ありがと」
「・・・あはは」

照れ笑いのごまかし方が無性に可愛い。
もうダメだ。
しょっぱなから俺の部屋でこんな雰囲気は・・・、もたない。

「昼になったら食おうぜ。とりあえず茶かなんか出すけど、何がいい?」
「そんなにいろいろあるの?」

くすくすと笑いながら言う。

「まあ麦茶しかねぇな」
「やっぱり」

麦茶を出してカーペットの上に座りながらくだらないことをしゃべった。
しかし緊張が取れきっていないせいか、一息ついたあたりでふいに沈黙が訪れる。

・・・あー、と、話題。話題ないか。

気まずさをごまかそうと俺が総力を挙げて話題の検索に入ったが、彼女のほうが速かったらしい。ふいに言った。

「そ、そういえばさ! えー・・・ベッドの下って見てもいい?」
「は?」

俺は面食らった。
ベッドの下?
なんで?

「えっちな本とかあるんじゃないの?」

俺は高校生男子か。
まあそれよりちょっと年くったくらいだけど。

「ねぇよ」
「へぇ〜・・・」

彼女が急ににやにやしだした。
・・・ワルノリの兆候だ。

「じゃあ見ちゃおうかなー」
「どうぞ」

はっきりいってそんな常識的な場所に置くわけが・・・

「・・・いや、あんたの性格なら違うわね。怪しいのは・・・・・・、衣装ケースの底とみた」

腐っても彼女かー!!!
ちくしょう、・・・当たりだ。
なんて素直に言うわけにもいくまい。

「・・・お前、そんなに見たいの?」
「へ?」
「エロイもの、見たいのかよ?」

もうこうなったらごまかすしかない。
腹くくって余裕ぶって逆に揺さぶりをかける。

「・・・そ、そうやってごまかそうったって・・・」

ち、さすがに手はバレている。
しかし揺さぶりは利いてるらしく、もう一押しとみた。

「エロイこと、したいんだ?」

一気に顔が赤くなる。
おお、かわいい〜。

「違う!」
「だって興味あるんだろ?」
「ち、ちが、それそのものにじゃなくて、あんたの、」
「俺のシュミが知りたいんだ? ケナゲだねぇ」
「違うってば!!!」
「安心しろよ、俺のシュミはお前だから」
「〜〜〜!!!」

ついだんだん楽しくなってからかい続けると、ぱくぱくと口を開け閉めしながら黙り込んでしまった。
うまい反論が出てこないのだろう。

と、思っていたら。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それもあるよ」

今度はこっちが度肝を抜かれる番だった。
挑戦するように、頬を染めながら俺を睨みつける。

「・・・テキトーに言わないでよ、だから」

・・・ヤバイって、だからさ。

「・・・・・・テキトーじゃないって。本当にタイプ」

抱き寄せてキスをする。
ヤバイけど、ヤバイけど。
・・・ここで黙ってたら男が廃るだろ?

「・・・あたしだって・・・・・・」

かすれたつぶやきをキスの中に甘く閉じ込めた。



挑戦50題より 25 隠し場所    207β 

ハレルヤ

「おやー、こんにちは」

ふいに背後からかかった挨拶に、あたしはげぇ、と思った。
・・・・・・結論。何も聞こえなかった。

「無視しないでくださいよー。今気付いたでしょう、確実に」
「・・・やだなー、幻聴聞こえる。医者行かなきゃ」
「リロルさん! そりゃないですよー」

しつこく追いかけてくるので、あたしはしょうがなく振り向いた。
目立つのはキライだ。

「・・・・・・ネズ牧師・・・」
「寂しいから無視しないでください。ただでさえ日曜の礼拝に来てくれないからなかなか会えないのに」
「礼拝なんかするより、実際働いて稼いだ金があたしを助けてくれるって知ってるからね」

冷たく言うと、牧師は悲しそうに眉を下げて笑った。

「・・・だから言ってるじゃない。あたしは神なんか信じてないって」
「えぇ。だから私も信じてほしいなんて、一度も言ってませんよ」

誠実な目があたしを映し、あたしはつい目をそらした。
・・・その通りだ。
牧師はあたしに一度だって信仰を押し付けなかった。
「ハレルヤ(主を讃えよ)」の一言さえ言わない。

「・・・じゃあ、何で」
「生きていく上で、人と人とのつながりはとても大切だからです」

・・・牧師はいつも全ては言わない。
考えさせてくれる。

「・・・教会に行けばいろんな人に会う。逆に行かなきゃ信心深い人に白い目で見られるってこと?」
「その通りですー。リロルさんはやっぱり頭がいい」
「・・・・・・でも、信じてない人が行ったら、信心深い人と悪い関係気付いちゃうかもよ?」
「リロルさんは頭がいいから大丈夫です。それでも荷が重いなら、」

牧師はあたしを見て、にっこりと笑った。

「私に会いに来て下さい。また次会いたくなるようにしてみせますから」

あたしはその笑顔が、今までの笑顔と違って妙に・・・、黒いものを感じさせてぎょっとする。
・・・うわぁ。そうだろうとは思ってたけど、ただのイイヒトじゃないわ、こいつ。

「・・・あはは、じゃ、気が向いたらね」

むしろ絶対行かないと誓いながら(誰にかはわからない)、そそくさと立ち去ろうとすると、牧師の落ち着いた声が呼び止めた。

「あ、リロルさん、知ってます?」
「・・・何を」

他の信者には見せない表情だろう、これ。

「牧師って、結婚できるんですよ」

あたしは即座に決心した。
今後一切この男に近づくもんか!



207ベータ 挑戦50題「24 ハレルヤ」

過剰防衛

207ベータ 挑戦50題「過剰防衛」
・・・といえばこいつ等でしょう。

『諦めの悪いヤツ』


「あ、槙野さんー。そのお茶一口くださいー」

家の近くを歩いていると、伊織がぐだぐだしたしゃべりで話しかけてきた。
・・・そうだコイツは梅雨が苦手だった。
低気圧の影響をてきめんに受ける体質で、頭痛がひどくなる。

「あ、ああ。大丈夫か?」
「・・・あんまり?」

私がちょうど持っていたお茶を差し出しながら尋ねると、へにゃっとした顔で言った。

・・・可哀想になぁ・・・。
全部・・・、とはいわないから半分くらい引き受けてやれればいいのに。

うっかりそんなことを考えて動揺し、ついで自分が飲んだばかりのペットボトルに口をつける伊織をみて動揺した。

・・・今更! 今更何に動揺しているんだ!

いったん気付いてしまうと、お茶を嚥下する咽やペットボトルをつかむ骨ばった手が目につく。
・・・・・・なんだって体調がちょっと悪い人間ってのは、色っぽく見えるんだ・・・!

必死に動揺を前に出さないようにしていたが、やはり伊織の前では無駄で。

「・・・・・・今更何恥ずかしがってるんですか? たかが間接キスくらいで」

直前までへろへろだったくせに、こういうときばかりにやにやと問いかける。

「なんなら口移しだっていいくらいなのに」
「死ねぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!!!!!」

ついに耐え切れなくなって思いっきりキックをかました。
避けられることは予想済みだったのでついでストレート・・・、あれ?

「うわっ・・・」
「・・・何やってんだお前」

いつもだったら余裕でかわして更に次の攻撃にも万全に備えてやがるのに、なんとか避けたはいいものの、しりもちをついている。

「本当に体調悪いんだな・・・」
「・・・言っときますけど、これくらいで普通か、これでも普通以上ですよ」

立ち上がるのに手を貸すと、悔しげに言う。

「まったく。槙野さんに付き合えるのなんか、僕くらいですね」
「・・・うう、うるさい」

お前だって、体調が悪いくらいがかわいげがあってちょうどいい。
・・・どうせいつも負けてばっかりなんだから。

22 蜜柑箱

あたしは赤ちゃんの頃、蜜柑のダンボールに入って道端に捨て置かれていたらしい。
まるで犬猫みたいにね。
だからあたしの名前は、蜜柑。
アホみたいに単純すぎる名前。
そんなバカな命名しかできない、バカな育て親の名前は清次。
あたしに沢村の苗字をくれた人。
あたしに家をくれた人。

―――あたしはそんなバカが、この世で一番大切。



「清次ぃ! 弁当の銀紙は捨ててから出してって言ってるでしょ!」
「あっ・・・! 忘れてた、ミカちゃんごめん!」
「いつもいつもぉ・・・!!! あっ! バカっ!」
「え?」
「清次それ、買ったばっかでしょ!」
「そうだけど?」
「買ったばっかのジーパンは色落ちするの! 他と一緒に洗濯機に入れるな!!」
「えっ!? ご、ごめん!」
「もうっ、いいから何もしないで休んでて!」

あたしは清次がやりかけていた洗濯に取り掛かる。
ちゃんとポケットの中身も全部点検しないと。
ティッシュが入ってるのなんて日常茶飯事なんだから。

「・・・・・・何」
「え?」

あたしがもくもくと仕事をしていると、清次はあたしの方を見たままにこにことしている。

「・・・やりにくいんだけど。何突っ立って見てんの」
「いやー。蜜柑は本当、いい子に育ったなぁ、と思って」
「・・・・・・・・・・・」

清次は時々、思い出したように愛称じゃなく名前であたしを呼ぶ。
そのたびにあたしは、心臓が飛び出そうになる。

「・・・清次が何にもできないから仕方なくね!」
「あはは、ごめん。俺、本当、ミカちゃんがいてよかった」
「あたしがいなきゃ、生きられないよ」
「全くだ!」

清次はにこにこと笑って、あたしの頭を撫でた。

・・・本当は、そんなことない。
この時代、家事なんかできなくてもやっていける。
あたしにかかる養育費を考えれば、簡単に。

清次は優しくて。
いつも笑って何でも許してくれるから、あたしは甘えてしまう。
それが、・・・子供に見られる一番の要因なのだろうか。

あたしはまだ14で。
清次はすでに38で。

でも清次はずっと独身で。
あたしのせいかと思うと申し訳なくて。
でも離れたら結婚するんだろうか、と思うととても離れられなくて。

清次はあたしの名前を役所に出すとき、やっと「蜜柑」を「みかん」と読めるようになった、そんなバカだけど。

清次は、
あたしの陽だまりで、唯一の居場所。

「・・・・・・ああ〜・・・、ミカちゃんは可愛いし、しっかりしてるし・・・・・・」
「・・・な、なに」
「でもまだ結婚できないからね! 俺のもとから巣立っちゃ嫌だよ!!!」
「知ってるよ! バカでしょ!」
「だって、こんないい子、好きにならないわけないもん! 学校で告白とかされてない!?」
「う、うるさいな! 大の男が『もん』とか言うな!」
「されたんだーーー!!!!! 付き合っちゃうのーーー!!!??」
「あわないよ!!!」

付き合わないよ!
好きな人は別にいるんだ!

他に好きな人がいるなんて、あんたが思うな!

「え・・・、よかったぁ・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ミカちゃんの結婚式なんて、俺泣いちゃうな。絶対」
「そんなのしないよ」
「後二年はねー・・・」
「正確にはあと1年と2ヶ月くらいだけど」
「うわぁあぁああ!! ミカちゃん!!!」

しないよ。結婚なんて。
できないよ、一生。
あたしにこれだけ幸せを与えておいて、あたしが離れられるわけないでしょ。

全部全部。
清次のせいなんだから。
拾ったのは、清次なんだから。

だから。

最後までちゃんと面倒見てよね。

あたしを、見ていてよね。



207β 挑戦50題「22 蜜柑箱」

21 旧式ストーブ

先日我が家のストーブがついに寿命を迎えた。
スイッチを入れてもすぐにエラーを起こして、3分ももたない。
だが俺はあえて言おう。

お前はよくがんばった・・・!

結構前からこいつはよくエラーを起こしていた。
そのたびに姉に

「3日前に換気口掃除してやったばっかだろうが!!!」

と叩かれ、

「何でつかないのよ! この役立たずっ!」

と妹に殴られ、

「いたっ」

と前方不注意の母に蹴られ、

「おや、間違えたかねぇ」

機械オンチの祖母にいじられていたのだから。
これは立派な殉職である。

しかし今はまだ2月前半。
雪国のここいらでは、まだ雪が降っている時期である。
こんな時期にストーブがおじゃんになっては寒くてしょうがない。

「この時期なら安売りしてるしね!」
「で、早速買ってきました!」

俺が仕事先から帰宅すると、お陀仏したストーブの代わりに新品のストーブが届いていた。
・・・・・・・新品?
それは俺が小さい頃、小学校で使われていたストーブに似ていた。
赤い灯がじわじわと冷めた空気をやわらかく染めている。

それは、いわゆる旧式ストーブだった。
ストーブの上にやかんをのせるとそのうち沸騰する、あれだ。

「・・・なんでそんな古い型なんだ?」

おもわずつぶやいた俺を、姉が殴った。

「なにすっ・・・!」
「リカコが選んだんだよっ! 文句あるかいっ!?」

リカコ、というのは半年ほど前に連れ合いになったばかりの、俺の奥さんだ。

「へっ?」
「・・・あ、あの・・・、気に入りませんか・・・?」

おずおずと、この家で唯一かわいらしい女が不安げに言う。
かわいい・・・、なごむ・・・。
俺がそんなアホなことを考えていると、妹がつねった。

「何ボサッとしてるのっ! リカコちゃんの、お気に入りなのこの型は!」
「あっ、あの。どうしてもというわけではないので、嫌でしたら・・・」
「あらっ、ガス代も節約できるし、いいじゃない」
「そうそうっ! こらっ、泰介! 何かいいなっ!」

ふんわりとあたたかい風が頬をかすめた。
体の芯からあたたかさが染み入る。

「いいね」

―――まるで君のようだ。

ボッと彼女が頬を染めた。
つい俺まで照れていると、「のろけてんじゃねぇ!」と姉にまた殴られた。


207β 挑戦50題 「21 旧式ストーブ」
「17 多勢に無勢」と同じ家族で。
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